2006年02月13日

僥倖とも言うべき『秋津温泉』との出会いに感動する

映画を観ていると、ある時自分がその場所にいることに感謝し、同時に感動する瞬間というものがあります。観ることを選択したのは確かに自分自身なので、いったい誰に感謝するのかとも思わなくもありませんし、例えばその感謝の矛先がその映画を撮った監督、そしてそれを上映した劇場に向けられるのかもしれないのですが、なんと言えば良いかわかりませんが、それよりも遥かに大きく、そして、途方も無い「映画」というものに向けられているかのような感動、それ自体僥倖としか思えない感動があるのだということに、改めて思い至りました。

それに似た感動は昨年、岩波ホールでマルコ・トゥーリオ・ジョルダーナ監督の『輝ける青春』に初めて接した時にも味わい、やはり「映画」だとしか言いようの無いその作品に出会えた事に感謝するしかなかった私ですが、この度初めて鑑賞した吉田喜重監督の『秋津温泉』には、上映後に吉田監督から発せられた言葉共々、冒頭に書いた感謝、そして感動に値する瞬間が横溢していて思わず泣いてしまいそうになりましたが、両隣に(やはりその瞬間を察知したであろう)こヴィ氏と[R]氏がいるので、何とかそれを堪えた次第です。しかしながら、かような感動を何とか言い表そうと言葉を書き連ねてみても、どうにも伝わりそうにないのが悲しいところ。よってこの漠たる思いは、そのまま同席した2名の友人への、親しみを込めた連帯としてここに表明しておくにとどめます。

というわけで、土曜日は念願だった『秋津温泉』を鑑賞、日曜日にはこれまたどうしても観ておきたかった『エロス+虐殺』を。『秋津温泉』の前には、空いた時間を利用してポール・ハギス初監督作『クラッシュ』も観ました。『クラッシュ』に関してちょっと触れると、初日の新宿武蔵野館は満席、恐らく既に発表されているアカデミー賞のいくつかの部門にノミネートされているからでしょう。これはほとんど思いつきですが、率直な感想としては“重厚な『運命じゃない人』”という感じです。個人的にはもう一度観る必要がある作品だと思っています。アカデミー賞云々は別として、『ミリオンダラー・ベイビー』に心を動かされた方は必見と記しておきます。

さて、いよいよ今週金曜日までとなった「吉田喜重 変貌の倫理」。まだまだ観たい作品があるので、今週はまたぞろ“反=社会人的”な行動に出なければならないぞ、と心に決めています。各作品に関する覚書のほうも余裕が出来次第順次書いていく予定です。

2006年02月13日 12:52 | 映画雑記
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Comments

>こヴィ殿

マ、マ、マジっすかーーーー!?
これは良いニュースをありがとうございます。流石に全部貸し出し中みたいですが、ちょうど今覚え書きを書きながらやっぱりもう一回づつ観ないと書けないかも、などと弱気になっていた最中だったので、私に取っては何よりの朗報です。
今日の帰りからTSUTAYAに日参ですね。


Posted by: [M] : 2006年02月24日 09:05

渋谷のツタヤに準新作で(先週)DVDも各タイトル一つずつありましたよ(すべて借りられてましたが)。まだ喜重コーナーではないみたいです。


Posted by: こヴィ : 2006年02月24日 03:31

>雄さん

コメントありがとうございます。
「変貌の倫理」はとうとう終ってしまいましたが、ほとんどの作品がdvd化されているので、ご自宅でなら観られます。ちなみに渋谷のTSUTAYAには、ヴィデオですが『秋津温泉』がありましたので、私も近く再見しようかと思います。本作の岡田茉莉子の美しさは、映画史に深く刻印されるてしかるべきだと思いました。


Posted by: [M] : 2006年02月23日 12:32

私もこのところの吉田喜重上映が気になっているのですが、見に行けていません。このエントリ拝見して、『秋津温泉』を久しぶり(35年ぶりくらい?)に見たくなりました。紅葉した林に佇む岡田茉莉子の姿が忘れられません。


Posted by: : 2006年02月22日 14:07

>ヴィ殿

『エロス〜』と『エロイカ』は、テーマも構造も似ている気がしました。全然違うようで、観た後の感覚が似ているというか……
岡田さんの超クローズアップをシネマスコープで観られる喜び。映画を観ていて、久々に恋に近い感情が芽生えました。
近頃吉田作品ばかり観ているせいか、逆光の無い映画にどことなく物足りなさを感じたりしてます。これはこれでマズイことではあるのですが。


Posted by: [M] : 2006年02月15日 15:08

共有した『秋津温泉』での僥倖、拙日記にも書きました。がうまく言葉にできません。しかし語りえぬもの、その残余こそ“映画”ですから!
そして『エロス+虐殺』は今日観て来ました。あのモノクロのハイコントラスト、逆光、眩しさはDVなどではなくスクリーンで全身浴びてこそ“観た”と言えるでしょう。それにしてもこれは音楽も素晴らしいですねー。


Posted by: こヴィ : 2006年02月15日 02:59

>難波様

おお! 久しぶりです!
ついにインターネット開通ですね。あまりに唐突なコメントだったので、驚きました。

旧知の友人にあらためてこのブログを読まれると、何だか急に恥ずかしさがこみ上げてきます。書いている時は全然考えませんが、そう言われてみるとこのブログの管理人は相当バカですね……

ともあれ、またちょくちょくのぞいてみてください。
難波さんが登場したとなると、「映画と旅」コーナーもそろそろ更新しなければならなくなりました。
どうか気長にお待ちください。


Posted by: [M] : 2006年02月14日 10:17

やっとインターネット開通しました。最初からざっと読ませていただきました。
Mの約3年の出来事が頭の中でリアルに回想できました。女性が階段から落ちてくるシーンは『アンタチャブル』で乳母車が階段を落ちる様にスローだったのでしょうか?自転車で怪我した時、酔って塀から飛びおりた時、鍋から火が吹いていた朝。Mではなく実はSのMさん。いろいろやらかしてますね。(笑)
これからもたくさん映画見て、ワイン飲んでいろんな世界を教えてください。


Posted by: 難波 和久 : 2006年02月13日 21:35
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