2006年01月24日
『ホテル・ルワンダ』のレビューに代えて思うこと
2005年6月以降、有志の映画ファンの方々の働きかけにより、日本公開の目処が立っていなかったあるアメリカ映画を何とか公開するための署名運動が始まりました。結果、4500人以上の署名が集まり、同時にそれがメディアの関心を惹いたことで、結果、この『ホテル・ルワンダ』というアメリカ映画は無事公開されることになったのです。幸いにして客足は好調なようで、私が観にいった初日は全回満席、現在も多くの観客を集め続け、どうやら拡大公開も決まっているようです。
さて、ここでは、そのテーマが孕む残酷さ、陰鬱さのイメージの所為か、アカデミー賞に三部門もノミネートされる程の客観的評価を与えられた本作でも、多くの観客を集めることは難しいだろう、と(恐らく)判断し、配給しようとしなかった現在の映画配給業界に、強く意義を唱えたいわけではありません。公開されなかったことには、前述した以外にも私には知り得ない様々な理由があるのかもしれませんが、今は結果として一般公開されているわけですから。ただし、映画もまた産業なのであり、客入りが見込めないと判断されれば公開すら危ぶまれるという当たり前の事実を、多くの人間に改めて印象付けたはずです。我々観客にはただ公開を待つことしか出来ないのか、という疑問に、新たな視点から答えを導き出した今回の一件は、その意味で歴史的な出来事だったようにも思われます。
予め公開を視野に入れていない極私的な作品を除けば、あらゆる映画は公開されてしかるべきだと、私は思っています。そもそも封切られる映画を全て観ることなど物理的に不可能なわけで、そこにはほとんど無根拠とも言える“排除と選別”が働いているのですから、それがまったくの理想論であり、むしろ矛盾ですらあることは先刻承知しています。ただ、『ホテル・ルワンダ』のような、とりわけ反=社会的でも暴力に示唆的でも非=人道的メッセージを刷り込むでもない(いや、仮にそのような映画だとしてもやはり公開はされるべきなのですが。間違っても映画とは言えない代物だった『コンクリート』のような作品でさえも。)、極めて真面目で真っ当なアメリカ映画が、意識的に我々の目から遠ざけられているというのはやはりどこか薄気味悪い話です。もちろん、現在の日本映画界において、制作されながらも公開の目処が立っていない作品が100や200はあるらしいという話を知らないではないし、日頃そのような“光の当てられない映画”に対し、「即刻公開せよ!」と憤りを表明しているわけでもないので、今回の一件があったからこそ、こんなことを改めて考えているに過ぎないのですが。
これは歴史的にみてもほとんど明らかだと思うのですが、一部の配給側にしてみれば、我々観客の感性などたいして信用していないということなのでしょう。あちらも商売ですから、できれば博打を打たずに、予測できる興収を得る方向で作品をセレクトしたいというのも肯けないではありません。実際、観客など当てにならないと言われてしまえば、それはある一面ではその通りなのかも知れず、だから、年に5本も映画を観ない観客が観に来るであろう、適度に笑えたり適度に泣けたり適度に満腹感のあるデート向きな作品か否かという価値基準が存在してしまうことを全否定するつもりなどありません。誰もが映画好きでない以上、それはまさに構造的な現況として認識せねばならないでしょう。
しかし、だけれども……と思わずには居られないのもまた事実なのです。
良い映画・悪い映画という絶対的な基準などそもそも無い以上、それがどんな映画であろうと、観客を騙してでも上手い具合に“乗せて”しまい、結果としてある“流れ”を作り出してやろうじゃないか、というぐらいの図々しさは持っていて欲しいし、そのような仕掛けは嘗ても今も、一部には見る事ができます。
『ホテル・ルワンダ』を観て感銘を受けた配給会社が無かったわけではないと思うのですが、仮に本作を“デート向きではない”と判断するのはあまりに狭量すぎるし、一方で、アカデミー賞やカンヌ映画祭などに代表される国際映画祭は、それだけで日本人にとって客観的な評価として充分通用してきたのも事実なのですから、あまり信用に足らない観客であるなら、話題を捏造してでも観客を劇場に呼び込むくらいの戦略は必要ではないでしょうか。
その点、今回『ホテル・ルワンダ』を配給したメディア・スーツと、公開に踏み切ったシアターNの英断は賞賛さるべきだと思います。この歴史的な出来事が、単にセンセーショナルな事件として消費されず、今後の映画配給において積極材料になれば良いのですが…そう、この文章の趣旨はまさにこの点にこそあるのです。
ルワンダでの大量虐殺が決してメインではなく(つまり、戦争映画的なスペクタルからは程遠く)、そのような悲惨な状況の中で様々な葛藤を抱えながらも、ある一人のホテルマンが自らのプロ意識を徹底的に貫ながら結果的に家族を守る様を、時に抒情的に、時にサスペンス豊かに描いた『ホテル・ルワンダ』のような作品は、これまで真正面から映画化されなかったルワンダの悲惨な歴史を、その一部でも知ることが出来るという意味で、観られるべき作品だと思います。
私は本作を、とりわけ傑作だとか言うつもりは無い代わりに、観たことをいささかも後悔していません。こういうアメリカ映画であれば何本でも観たい、とは思いこそすれ。観た後の感想は人それぞれでしょうが、世界には、“観る”という行為そのものに価値がある映画というものが、少なくとも存在すると思うのです。いや、やはりそれはあらゆる映画に当てはまるのかもしれませんが、そこまでは一生かかっても確かめられないでしょう。
2006年01月24日 12:00 | 邦題:は行
>INT.さま
こんにちは。
最初は私も政治的な要素なのかなと思いましたが、ちょっと調べたところ、どうやら映画自体の価格がアカデミーのノミネートによって高騰したみたいです。つまり、それを回収するには、相当当てなければならない、と。
これまで脇役が主だったドン・チードルでは弱い、ということですかね? 監督もまだ日本では広く知られてはいないですしね。
私の文章も、ほとんどストーリーには触れておらず、あまり参考にはならないと思いますが、これは観たほうがいいと思います。すごくよく出来ていますから、安心してご覧下さい。
Posted by: [M] : 2006年01月25日 16:05
私が『ホテル・ルワンダ』を見ていない事もあるんですが、
ウィンターボトム監督の『ウェルカム・トゥ
サラエボ』は
上映されたのにこちらが上映されないって言うのは
なんか変な感じですねぇ。
それもクオリティの問題でなく国際情勢か何かを鑑みてパスした、
と言う話だとすれば尚更に。
(『ウェルカム〜』だってコソボ紛争の話ですし)
『ホテル・ルワンダ』に関しては署名運動の話ばかりが表に出て
ストーリーについて全然話題にならないので二の足踏んでました。
むしろ[M]さんのエントリを見て興味が湧いたと言う……(笑
Posted by: INT. : 2006年01月25日 11:33
>シー君
久しぶりです。これは是非とも観てください。
今ならシアターNも2館同時に公開しているようなので、混雑も若干は緩和されているかもしれませんよ。
就職したって? そりゃめでたいっすね。
まぁ詳しくはmixiのほうにメッセージ残します。
Posted by: [M] : 2006年01月24日 17:42
お久しぶりです。
最近あまり映画を観ていませんでしたが
これは観にいこうと思います。
あ あと就職しました。
Posted by: シー : 2006年01月24日 16:59