2004年09月26日
『モンスター』、演技を超えた肉体
シネマライズの初回にて『モンスター』を鑑賞しました。10:10の回にもかかわらず、私が到着した9:20頃にはすでに20人以上の人が並んでいました。雨が降っていたにも関わらず、なるほど、オスカー女優の変貌振りはあらゆる人間の興味を惹くということでしょうか。実際、『モンスター』についてまわったのは、“主演女優賞”という事実よりも、“13kg体重を増やした”とか“「世界で最も美しい50人」に選ばれるほどの美貌が、ここまで!?”とか、そんな文句だったように思われます。
確かにシャリーズ・セロンの表情は醜悪に変貌していました。そしてその醜悪さは、実在したアイリーン・ウォーノスの雰囲気を充分表現し得ていたと思います。体重増加と特殊メイクにより、シャリーズ・セロンが本来持っていた美貌はほとんど消滅していたと言えるでしょう。しかし、私がそれ以上に感動したのは彼女の肉体そのものにです。彼女の肢体は、(私の知っている)だらしないアメリカ人女性のそれでした。腹はたるみ、尻は膨張し、歩き方も飲み方も自転車のこぎ方もだらしない。だけれども、そのだらしなさこそが感動的だったのです。半裸の下着姿を入れても、裸になるシーンは3シーン程しかなかったと思います。しかし、その頻度の少なさゆえ、肉体が演技を超える様だけが印象に残りました。言葉遣いや表情も良かった、良かったですが、やはり、私はあの精神的な問題が表出しているに違いない、肉体的なだらしなさを見せてくれたことを賞賛したいと思います。
私は新人であるパティ・ジェンキンスに、映像的な衝撃性を期待していました。息を飲むようなシーンは残念ながらありませんでしたが、それでも記憶に残るシーンがいくつかありました。例えば、シャリーズ・セロンが2人目の犠牲者を出すシーン。最初、彼女の表情とせっぱつまった息遣いを観て、別の行動を予測していたんですが、こちらの予想は大きく裏切られ、ほとんど瞬間的に彼女は引き金を引きます。どんなアクションがあったのかを確認する暇もなく、4発5発と男に銃弾を浴びせるのです。彼女の殺人は大体夜に行われるのですが、車中での銃殺シーンならではの、暗い車内の閃光と銃撃音だけで男の死を予感させるあのシーンには少なからず驚かされ、そして深く肯いた次第です。
また、ラスト近く、シャリーズ・セロンとクリスティーナ・リッチが電話で話す場面。ここでは、留置場らしき場所で話すシャリーズ・セロンと、明らかに警察の監視下にいることが予想されるクリスティーナ・リッチの表情が交互に切り返されるのですが、もはや殺人犯との関わりを否定せざるを得ないクリスティーナ・リッチの表情からカメラが右にパンし、やはりと言うべきでしょうが、数人の刑事がその会話を逐一録音している様子を捉えたとき、わかってはいても「ああ…」と嘆息せずにはいられませんでした。常套といえばあまりに常套な、別段驚くに値しないシーンではありましたが、ここまでの2人の関係を表す重要な場面がしっかりと演出されていたからこそ、生きてくるシーンです。
最後に、クリスティーナ・リッチの演出についても、もっと評価されてしかるべきだと思いました。好みの問題はさておくとして、本作の彼女は、私が観てきた中で最良の演技に相当するものだったかと。唯一の欠点は、彼女の裸を見せなかったことです。タンクトップから浮き出る硬直した乳首は見せていたとしても。
『モンスター』の後、南口のキリンシティでビールを飲みつつ時間をつぶし、『珈琲時光』へと流れましたが、こちらの文章については、今日中に更新できないかもしれません。最悪でも明日の昼くらいには。ちなみに、『珈琲時光』では久々の上映トラブルがありました。記憶を辿れば、シネセゾンで観たゴダールの『ヒア&ゼア』以来ですかね。途中で上映が止まり、音声だけが流れたのですが、まだ観ぬシーンを音声だけ聞かされ、何となく展開がわかってしまうといった事態には、若干怒りを覚えました。
2004年09月26日 20:50 | 邦題:ま行
>puffさま
「モンスター」愉しまれたようで何よりです。
クリスティーナ・リッチですが、ラストの数十分(あの電話あたりから)の彼女は非常に良かったと思います。彼女の残酷な甘えが無ければ、ここまで凄惨な事件にならなかったのかも知れない、などと考えると。
法廷でのあの目つき、劇中ではさらっと流れて行きましたが、あの演出こそ最も素晴らしい部分だったと思います。
Posted by: [M] : 2004年10月05日 22:04
今日、観て来ました!!
想像以上に良かったです。
実は、シャリーズ・セロンの肉体改造の話題ばかりが先行していたので
正直言ってそれ以外のものがあるのだろうか・・・などと不安だったのですが、、
いやはや、少なからず彼女の心の闇に触れられたようです。
シャリーズ・セロンの演技ももちろん良かったですが
クリスティーナ・リッチもそれに劣らず好演でしたね。
少しずつずるさが見えて来るところとか
あのしらーっとした眼つきとか印象的でした。
Posted by: Puff : 2004年10月05日 19:15
10月14日に上映されるらしいです。
↓
http://www.tokyofanta.com/2004/top.html
それにしても。
アイリーン、そっくりでしたね。。
Posted by: H : 2004年09月30日 11:30
>Hちゃん
すぐに観にいってくれて嬉しいです。
確かに、詳細な心理描写を意図的に避けていた分、若干の説明不足は否めません。
ただ、あの“簡潔な”殺人シーンは嫌いじゃなかったです。心理よりアクションが前景化していた気がしたので。これも好みの問題ですかね。
彼女のドキュメンタリーについては、知りませんでした。よければ、詳細を教えてください。
またいい映画に出会ったらお薦めします。
Posted by: [M] : 2004年09月30日 10:02
はじめまして、後輩のHです。
直接お薦めされたので見てきましたよ!
『モンスター』。
シャリーズ・セロン、すごかったですね。
アイリーンの過去のシーンが少ない分
彼女の今までの人生や経験を語らせるに足りたあの肉体は
かなり印象的でした。
クリスティーナ・リッチの演技もよかったですし。
キャスティングはかなりよかったと思います。
あと、アイリーンに同情的になりすぎず
ニュートラルな視点からの作りには好感が持てました。
予告編や、雑誌で見る『モンスター』のイメージから
もっと悲劇的なものを想像していたので。
なので、うるうるっときましたが
「号泣」とまではいきませんでした。
個人的には、後半、アイリーンが殺人を重ねる部分で
感情の変化をもうちょっと細やかに描いて欲しかったです。
あまりに短いシーンが多かったので、
ちょっとやるせなくなりましたし。。。
でも、見てよかったと思いました。
映画時間まで教えてくださって
ありがとうございました!
こんな感じで大丈夫ですかね?
思いつくまま書いてみました。
ちなみに、アイリーン本人のドキュメンタリー映画も
公開されるんですね!
ゼヒ見に行きたいと思ってます。
では。
Posted by: H : 2004年09月30日 02:55
『モンスター』は是非。今日、後輩にも薦めて、観にいってくれたようです。さて、どんな感想をくれるのやら。
例の会員、写真はやはり無いようです。久々に、インスタント写真を撮らねばなりませんね。『アメリ』みたいなファンタジーは絶対にありませんが。
映画においては行き過ぎるということはありません。多分。後悔先にたたず、公開は後に待たずです!
Posted by: [M] : 2004年09月28日 03:03
Mさん、こんばんは!
こちらでは初めまして。
シネマライズ、50分前で20人以上とは多いですね!!
巷では賛否両論あるみたいですが、心身共に崩れた役柄を是非観てみたいと思います。
ところで書き忘れましたが、例の会員で特別上映でも1000円で行けます。
去年の六本木ヒルズのジャック・タチ映画祭ではせっせと通い全部制覇致しました。
1000円だと思うと気軽に行けるので、ついつい行き過ぎてしまいます。エヘ
Mさんもお気をつけて!!笑
Posted by: Puff : 2004年09月27日 22:45